鈍色の楽園のおはなし
明るく幸せな日常。色とりどりの生活。美しき感情の波
今日、世界は美しい色で染まっております
空に日が昇り、物は光を反射して、虹を映し出し、美しく輝き。
日が沈めど、月の僅かな光は、仄かに青く、世を照らし。
幸せのあふれる島。日の本に在りて、輝きを失わぬ楽園
ここは楽園。幸せの、ほんの少し隣。
ここは楽園。鈍色に染まる、自由の島。
ここは楽園。嫌われ者の、最後の漂流地。
20xx年、世界にふと超能力ブームがまきおこる。
種も仕掛けもなく、物を動かす者が現れた。火をおこす者が現れた。砂を操る者が現れた。瞬間移動する者が、天気を操る者が、死なぬものが、空を飛ぶものが、異形の姿に変わるモノが、兵器を産み落とすモノが、現れた。いくつも、いくつも
なんて事の無い学生が
仕事に追われる社員が
指先一つで大金を動かす富豪が
テレビで活躍する俳優が
路頭に迷い、死を待つものが
ふと。本当に前触れも無く。「力」を持ち始めた。
それは人には余る力。一人の人間を国家級の兵器に至らしめる力。
誰にも気づかれずに、人を殺め、事故を装い、物を奪い、「力」が、一つの町を潰したころに
ふと、ブームは幕を閉じる
世を賑わせていた超能力者は一人、また一人と姿を消してゆく
楽園は、また、何事も無かったように輝き始める
その内に、鈍色の塊を、孕んで。
そう
ここは楽園
鈍色の、楽園
幸せの隣、自由の島
嫌われ者の、漂流地
力を持ったモノの、最後の地
生存は約束されず、平穏は約束されず
生活を約束され、自由を約束され
警察も、法も国家も無く
すべてが合法で、許され
力あるものは、皆
殺し合い、奪い
恐れ、嘆き
震え
鈍色に、染まる。