金箔塗りの、筍のブログ。

(´・ω・)結構自由人です。そのせいで損ばっかりです。

昔話 (小説)

「昔話をしよう」

彼は、ふと言ったんだ

何か、気になったり、傷ついたり、思ったことがあったわけでもなく

ただ、思いついたように、ふとその場で、語りをはじめる

「ん~?どこの~?」

彼女は少し間を置いて、聞いた

別に気になったわけでもなく、聞きたかったわけでもなく

ほぼ反射的に、薄れる意識のまま彼の方を向く

「ふふ、場所じゃなくて、人の話かも知れないんじゃないかな?」

彼は、言い聞かせるでもなく、ぽつりと言った

自分に問われたわけでもないし、ましてや質問にすら答えてはいない

ほんの意見、両者の間に立ち、また、話を見守り続ける

「昔話?ももたろうー?」

彼女は無邪気に、純粋に答えた

その単語に飛びつき、何が始まるのかを楽しみにしながら

身体を向け、いつもの笑顔で耳を傾ける

「・・・どうせ、ろくでもない話だろう」

彼は否定的に、答えた

ふる意識も最小限で、つまらなく、徳にならないだろうと

向こうを向いたまま、少し、みつめる

「・・・何が・・・言いたいの?」

「・・・ほんの、記録だよ」

 SS:昔話 (0,182)

 

「昔、あるところに少年がいた。貧しい少年だった」

 

「はっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」

いつものことだけど、この時が一番大変だ

両手に持ったパンを潰さぬよう、落とさぬように全力で走る

後ろは見ず、頭の中で最短のルートを作り、走る

 

「待てやこの糞盗人小僧があぁぁっ!もう逃がさんぞおおぉっ!」

・・・見ない、というよりは、見なくてもいい、の方がいいのかな

どうせいつもの真っ赤な顔で、棒振り回して走ってきてるんだ

普段と違う店主にお得意さんの驚いた顔、いつもの現場と薄ら笑い眺める本屋の店主

目を丸くしてみているどこかのおばさん、捕まえようと手を伸ばす武器店のーー

「っぶなっ!」

間一髪、屈んでその手を避ける

危なかった!ここからは追跡者が増えてしまうんだった

「くぉら!まーたやってんじゃねーか止まれ!」

そう言って店頭の売り物の剣(どーせ切れないナマクラ剣だろうけどな!)

片手に、パン屋の店主と並んで追ってくる

こーんな二人に追われたら、止まれといわれても魔物だって止まるまいさ

 

ふと視界に入る黒い世界

終わった時代の成れの果て、ゴミと浮浪者の闊歩する空間

俺の楽園であり、こいつらとのおいかけっこの終着点だ

入り組んでいて、追い回しにくいってのもあるけど。まず、入ろうとなんてしない

ここに一歩でも入った人間をあいつらはゴミと同様に見るからだ

どんな理由であれ、もはや誰であれ、だ

有名な逸話として、ここに入った王子様の話があるけどー・・・そんなのは今はいいか

「・・・はんっ!」

走りながら少し振り向いて後ろを見る

こおに近づくにつれ、あきらかにペースは落ちてる

あらかさまな態度は、このときだけはまったく気にならないし、むしろありがたい!

このときばかりは、世界も明るいものだ

 

ここに走りこんで、こんどはしっかりと振り向く

「・・・っのガキ!次はぶっ殺してやるからな!」

「ぶっ殺しはしないけどさ!ぶった切ってやるよ!」

あの悔しそうな顔!これがスカーッとしていい

 

パンは落としてない、運がよかったのか、欲張らなかったのがよかったのか

これで今日も生きられる。その場でパンを一つかじる

まずここで勝利の余韻に浸りながら、去り行く二人を見ながら堂々とパンを食べる

これは、ほぼ日課になってきてい「おーらっ!」」

          ガンッ!

「っが!」

激しい痛みが頭に響く、殴られたらしいっ!

そのまま前にぶっ倒れる、パンが周りに散乱する

「・・・っよーし、今日もごくろーさん。盗人君」

野太い声が、頭に響く、ガンガンする

「はいはい、ごっくろーさん」

「毎日大変でちゅね~ぼくちん達の為に~」

こいつらはそういいながら僕を蹴ったり踏んだりしながら、パンを奪っていく

・・・嫌な話だが、これもいつものことだ

大の大人がよってたかって子供から物を奪う、強いやつが、誰よりも偉い

ここの常識だ。生きるためなら当たり前だ

「じゃ、まーた明日も頼んだよぉ?」

地面に這い蹲りながら、歩いていく奴らを見る

別に奪い取りに行くなんてことはしない、どうせあんなもの・・・

 

今日は二個も食えたんだ、十分さ

立ち上がって、自分の寝床へ帰る。寒くて汚いけど、唯一の安息の場だ

そこで僕は

「・・・それ、お前の自語りか?」

「・・・話の途中なんだけどな。ていうか俺乞食上がりの卑怯で嫌味なそんな子に見られてたの?」

「・・・卑怯で、嫌みったらしい・・・けど?」

「・・・まあいいよ、また、いつか話すとするよ」

彼はぱたりと本を閉じる

いつからあったかなんて、彼にもわからないような自然さで

また彼は、扉を開けて行く

「ん~~っ・・・お腹空いたね~」

彼女は伸びをしながら、言う

流れなんて関係なしで、自ら思うがままに

立ち上がり、調理場へ歩く

「・・・続きは、またすぐに聞けそうだね」

彼はふわりと手を止める

空に手をやり、何かを弄んでいた手を止め、下ろす

ふと微笑を浮かべ、ふらりと消えていく

「んー・・・よくわかんなかった・・・」

彼女は難しそうな顔で問う

想像と違うものに対して、全く興味を失って

普段のように、彼に相手を強要する

「・・・ふん」

彼は特に動くことも無く

自らが止めたというのに関心は無く、ただただ呆れて

手にした杖を基点に、振り向いた

「・・・不幸自慢・・・ね」

また日常がはじまる

何事も、無かったかのように