ダイナシノショウセツ
「なんなんだ…これは…!」
『奇跡の冒険家、クレイル・ジョンスの手記』より
第二章:最終頁
…空高く上がり、周囲を眺めたとき、私は、見たのだ。
ただ果てしなく、「永遠に」つづく「真っ直ぐ」な大地を、海を。
比喩などではない。まさに、永遠に、真っ直ぐと、地平線が見えたのだ。
「地球は…丸かった。」
新たな技術を次々に生んでいったジョンス氏。彼の手記は、ここには無い言葉で書かれ、知らぬ単語が次々と出てきており、学者達の間では「技術の預言書」などとも呼ばれている。
「『ちきゅう』…ねえ…」
海を眺めつつ椅子を前後に揺らし、本の言葉を復唱してみる
不思議なものだ、聞いたことも、意味も分からない単語でも、こう、口に出すと、意味を理解できているかのように思えてしまう
「ん、『クレイル・ジョンスの手記』の言葉か。ずいぶんと珍しいものを持ってきたな?」
部屋の奥から、大柄な男がでてくる
少しにやついているのは、俺なんかがこんな本を持っているから。なのだろう
「…嫌味か」
「あぁ嫌味だ」
しかも即答か
嫌気がさして、本を閉じる。もともと興味本位だったんだ、別に、読みたかったわけではないんだ
だから、ここで読み止めても、問題は無いだろう
「…どうした?やっぱり難しすぎたか?」
笑いを押し殺した声が聞こえた気がするが、無視することにしよう
…ふむ、久しぶりに本なんて読んだせいで少し眠いな。よし、この夕日をみつめながらひと眠り…
ゴッ
「っづあっ!?」
にぶい痛みがおでこに走る。何をするんだ俺の貴重な睡眠時間を…
「寝るな寝るな。仕事がきてんだよ」
この男は…本を読まずに鈍器にするとはなにごとだ。お前こそ本を読むに値しない…
「ククク、早くしないと、こわーいボスが怒り出すぞ?」
…見た目の割によく笑う奴だ
「…分かったよ、アガッド。ボスにすぐ行くって言っておいてくれ」
頭をさすりながら立ち上がると、アガッドは来たときのように笑いをこらえた顔で奥へときえていく。
・・・ふともういちど、海を、海の向こうを見つめる
「きっと、この先に、『ちきゅう』ってのもあるんだろうな」
誰に言うでもなく、言葉がもれる
ふと手に取った本でも、この世界で生きる糧にはなるものだな。
生きて、見てみたいと思う物が、また一つ増えた。
まだまだ死ねない。世界には、俺の知らないものが多すぎるんだ。
ゴッ
「いってえ!」
「遅いんだよシギ。何見てんだお前は」